30歳直前で無職になる。

激務にセクハラに社内ニートに何もかもから逃げ果せた今、自分がどうなってしまったのか、どこに向かっているのか、真剣に向き合ってみます。

「美味しいものが好き」でいい

誕生日を過ぎると本棚に学研の図鑑が増える。

動物、恐竜、乗り物、人体

そしてなんでもない日に、一際分厚い本が追加された。

1ページがこれまでのものよりもずっとずっと薄っぺらい。

写真や挿絵は豊富だけども、とにかく文字数が多かった。

加えて、ふりがなが減ったことで、飛ばし読みをするようになった。

 

そんな時に進研ゼミの付録で届いた漢和辞典は、

ハリーポッターシリーズを全巻読破するまで愛用した。

 

一度読み終えた本を、繰り返したり、流したり、

好きなところだけを読んだりするのは、

この子ども百科事典が影響しているのかもしれない。

 

 

 

「通勤時間が1時間以内となる現場・プロジェクトに配属する」

自宅の最寄り駅で、私の毎日の往復3時間を埋めてくれる本を探すのが、

書店が閉まる前に退勤できた自分の習慣になっていた。

同期たちのプレゼンの情報源にはどれも心当たりがある。

課長、あんたもかい。

 

 

ほんの少し業務が落ち着いた頃、いつもはPCの外部モニター代わりのテレビをつけた。

ぼーっと見ていたチャンネルで、林修先生がこんなようなことをおっしゃっていた。

「最近のベストセラー本は離乳食」

 

それからは、書店で平積みされた本を避けるようになり、本を買わなくなり、

仕事を辞め、本屋まで自転車で20分の実家へ戻った。

 

読書から遠のいたのは、林先生の言葉をそのままに受け取ったからじゃない。

 

私は「意識高い系」なんかじゃないし、背伸びが必要な程の知識が欲しいわけでもない。

ただ、何もしないで満員電車で席をとっているには居心地が悪い。

立っていれば脳貧血を起こしそうな時間を「私の吊革だけ軋んだ音を立てる」

なんて思いながら過ごすのが嫌だっただけ。

 

上っ面だけうまいことやっている彼らは、見事に上っ面だけうまいことやっていたんだ。

額に横皺をつくって視線を同僚へ配り、胸の前の空気をぐるぐると両腕で掻き回し、

左から短い順に並ぶぼっこの右端を指して2倍だの200%だのと言う。

彼らは右へ左へと歩いてもいるが、どうにも話の中身がスッと自分の中に入ってこない。

 

私は既に食べ慣れた離乳食に飽き飽きしていたのかもしれないし、

消化しやすいものばかり食べる自分と彼らを重ねて、自身を卑下していたのかもしれない。

大人だと思っていた人が、卑下した自分と同じものを食べていると肩を落としたような気もする。

嫌いな人たちと共有するものをわずかでも減らしたかった、と書くのもいい。

これを読み返した私が大きく頷いてくれるに違いない。

 

 

 

予想外な方向からの、まったく悩みにリンクしない言葉が流れ弾のように私を掠めて、

頭の中いっぱいに膨らんだどうでもいいくすんだものを、ちょっとだけ外に押し出してくれた。

ほんの少しだけできた余白を使って、上司に、相談ではなく弱音を吐いた。

 

そうして今、私はタブレットのバッテリーの大半をKindle  Unlimitedで消費し、

冬に仕込んだ堆肥を使った家庭菜園に夢中になっている。

 

 

 

本当はNetflixでの消費の方が多い。